※現代パロ
※幼なじみ設定
アイスクリームを口一杯に頬張るアラジンに、アリババは呆れた声を出した。
「そんなにがっつくと腹こわすぞ」
「大丈夫だよー」
蝉がうるさい8月初旬の午後3時。
クーラーが壊れたアリババの家のリビングで、2人はコンビニで買い込んだアイスを広げていた。
留守番を頼まれ、うだるような暑さから逃げられないアリババの腹いせに、アラジンが巻き込まれたのだ。
幸せそうにアイスをつつくアラジンに苦笑して、アリババも溶けかけたアイスクリームをスプーンですくい、口に運ぶ。
ひんやりとした甘さが口に広がり、喉を伝う。
アラジンがだらしなく顔を緩めてしまうのも頷ける。
アラジンは早くも2つ目に取りかかっていた。
今度はソフトクリームだ。
透明なカップが被さっている渦巻きを見つめる目は、きらきらと輝いている。
「本当に幸せそーに食うよな」
「この暑さだからね」
「いや、お前、食いもんの前だといつも幸せそーじゃん」
自覚のないアラジンは少し首を傾げる。
「美味しいものは好きだからね」
「そんなこと言って、女の子も好きだろ」
「うん」
「女の子の前でもすっげー締まりのない顔してるぜ。ていうか、好きなものを前にすると顔の筋肉緩みっぱなし」
分かりやすいよなー、と笑って、アリババはアイスを口に含む。
アリババの揶揄に、アラジンはソフトクリームを開ける手を止めて考え込んだ。
いつもの軽口のつもりだったアリババは、そんな幼なじみを不思議そうに見る。
そんなに考え込むようなことではあるまい。
「どうかしたか?」
「……うん。ぼく、思ったんだけど」
しばしの黙考の末、アリババに顔を向けたアラジンはやけに深刻な表情をしている。
「食べ物や女の子の前でそんなにカッコ悪い顔してるんだったら、アリババ君の前でのぼくの顔は大変なことになってるんじゃないかな」
「は?」
意味が分からない。
思考回路が追いつかないアリババを、アラジンは待つことなく更に引き離す。
「だってぼく、食べ物や女の子よりもアリババ君が1番好きだもの」
「な……っ」
理解するよりも先に「好き」と言う単語に顔が熱くなる。
息を大きく吐いて顔の熱を逃がし、アリババは幼なじみから少し視線を逸らした。
「何となく言いたいことは分かったけど……まあ、別にそんな深刻な顔することじゃないだろ」
「でも」
「いーんだよ。オレは嫌いじゃないんだから」
とてもアラジンのようにストレートには言えず、けれど何も言えないのも悔しくて、アリババは一息に言い返した。
そして、アラジンが口を開く前に、カップの中で完全に液体と化したアイスを一気に喉に流し込む。
ちらりと見やると、アラジンは自分を見ながらぱちぱちと瞬きをしており、アリババと目が合うとにこりと笑った。
「アリババ君がいいならぼくもいいや」
そう言うと、手の中のソフトクリームが溶けだしていることに気づき、慌てて蓋を取る。
手を伝った白い筋をペロリと舐めとる横顔に、もう先程の憂いはない。
気分屋な幼なじみに溜め息をつき、アリババは2つ目に手を出す気がおきず、その横顔を眺める。
体を火照らす熱はまだまだ引きそうにない。
(のぼせそうだ)
5巻発売おめ!
(10.08.18)