TIME

Partner :: Gino

Episode 1

 綺麗な金髪をいつも3本のみつあみにし、晴れた日の空のような水色の瞳に無邪気な笑顔、
私より1つ年下なはずなのに大人のように長身の少年。
それが、私の婚約者、ジノ・ヴァインヴェルグ。

私はその姿を一度も見たことはないけれど。



○ 。 ゜ ○ 。 ゜ ○ 。 ゜ ○ 。 ゜



「目の手術をしようと思うんです」

の言葉に、ジノは怪訝そうな顔をする。

「何で今更?」
「知り合いの方がお医者様を紹介してくださったんです。
 何でも、名医と呼ばれている方なんですって」
「へぇ」

 短い返事からはジノの感情を読み取れず、は戸惑う。
まぁ、ジノとの会話にはは戸惑ってばかりなのだが。

「・・・・・・ジノは反対ですか?」

 一瞬キョトンとし、ジノはすぐに笑い出した。

「そんなわけないだろ」

 席を立つと、ジノはの前で膝をつき、彼女の手を握る。

がそうしたいならそうすればいい」

 その声音は優しかったが、突き放されたような気がして、は俯く。
 本当は、一言で良いから賛成の言葉が欲しかったのだ。



○ 。 ゜ ○ 。 ゜ ○ 。 ゜ ○ 。 ゜



 とジノが始めて会ったとき、二人はすでに婚約者だった。
また、の瞳もすでに光を失っていた。
盲目でも気にしない、と彼は言ってくれたが、それでもやはり自分は―――。

?」

 聞き覚えのある声に、は声が聞こえたほうへ顔を向ける。

「ジノに会いに来たのかい?」

 そう言いつつ、声が―――ナイトオブセブン・枢木スザクが近づいてくる。

「あの、王宮に入りたくて父の用事についてきたってことになってるので・・・・・・」

 ぐらいの年頃の少女が王宮に興味を持つのは珍しいことではないし、の身分なら中に入ることも可能だ。
だが、は王宮にさして興味はないし、第一何も見えないのだ。
となるとがここに来た理由はおのずと知れるのだが、やはり口にするのも指摘されるのも恥ずかしい。

「ごめん。そうだったね」

 自分のワガママに付き合ってくれるスザクは優しいな、と思う。
ジノが気に入るはずだ。

「でも、さっきジノはまだ帰ってきていないと言われました」

 2ヶ月ほど前に任務に赴いたジノが帰ってくるのは昨日の予定だった。
しかし彼の仕事上それも仕方のないことなので、しょうがなくここで父の迎えを待っていたのだ。

 しかし、スザクはの言葉に首を傾げる。

「ジノなら昨日のうちに帰ってきてるけど」
「え、本当ですか?」
「うん。遅い時間だったけどね」

スザクの声が少し重くなる。

「もしかして、帰ってからスザクの所にお邪魔したのかしら」
「・・・・・・そんなところだよ」
「いいなぁ・・・・・・」

 どこが?とスザクが昨日のことを思い出してか、嫌そうに言う。

「だってそれはジノがスザクのことを本当に気に入ってるってことでしょう?
 私にはそんなこと絶対にしないもの」

 の前でのジノは大人しくて礼儀正しい。
スザクやアーニャと一緒にいる彼を見て、それが<普段の彼>ではないと知ってしまってからは、
どことなく淋しさを感じていた。

「そんなことない!ジノはを大切にしてると思うよ」

 スザクが慌てての前に膝を折り、その手を取る。

あ・・・・・・。

「ジノもこの間こうしてくれたんですよ」
「そうなのかい?僕がよくナナリーに同じことをするからかな」

 自分のことを少しでも考えてくれたのかと思うと、嬉しくて、自然と頬が緩む。
それにホッとしたスザクは、立ち上がっての車椅子の後ろに回る。

「ジノなら部屋にいると思うから」

 スザクの言う部屋とは、ラウンズに個別に与えられている部屋のことだ。

 歩き出そうとしたスザクを、は慌てて止める。

「あの、実は私、今日会いに行くということを伝えてないんです。
 勝手に行ったら迷惑に思うかも・・・・・・」
「それはないよ」

 スザクは何を根拠にかそう言い、車椅子を押して歩き出した。
ジノの部屋につくまでの間、そわそわと落ち着かないに、スザクは気を使ってくれたのか、ジノの話をしてくれた。
 次の角を曲がればジノの部屋だよ、とスザクが教えてくれた、丁度そのとき―――。

「―――ジノ」

 その声は、曲がり角の向こうから聞こえてきた。
 自然と2人の歩みが止まる。

「ねぇジノ、いいでしょう?それとも、この後何か予定でもあるの?」
「んー別にないけど」

 なら、いいでしょ?
そう甘ったるい猫なで声で、その女性はジノを呼ぶ。
喋り方こそ違えども、それは先ほどにジノの不在を教えてくれた声だった。

 2人は二言三言話すと、楽しそうに笑いながら遠ざかっていった。
どうやら、2人でどこかに出かけるらしい。

 静かになった廊下に、しばらくとスザクは立ち尽くしていた。
どう声をかけてよいものか迷っていたスザクより先に、が口を開く。

「スザク、戻ってくれますか」
「・・・・・・ごめん」
「いいえ」

 そう言ったの声はいつもと変わらなかった。

「スザク、ジノのこと気にしないで下さいね」

 私は気にしませんから、と少女は笑った。


初出:08.11.09 収納:09.05.23

Memoに上げてたログです。
いやー終われてよかったよかった。


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