TIME

Partner :: Gino

Episode 2

「この子が貴方の婚約者よ」

そう言って母親が見せてくれた写真の少女が、だった。
とびきり綺麗というわけではないが、そこそこ可愛い子だな、というのが第一印象だった。
1つ年上ということだが、どう贔屓目に見ても自分より幼く見えた。
ただ、会うことが少し楽しみになったのは、の笑顔を素直に可愛いと思ったからだろう。



○ 。 ゜ ○ 。 ゜ ○ 。 ゜ ○ 。 ゜



何か変だ。

初めにそう感じたのは、スザクの態度だった。
遠征から帰った翌日から、何となくスザクの視線が痛い。
何か言いたそうにこちらをみてくるのだが、尋ねてみれば、しばらく逡巡したあげく、言えないという返事だけが返ってきた。
言いたくないではなく、言えない、だ。
結局スザクからそれ以上聞き出すことは出来なかった。

もう一つ気になることがある。
のことだ。
何故か面会は拒否され、電話も繋がらないし、メールも返ってこない。
こちらもやはり理由は不明。

虚しく鳴り続けるコール音に溜め息をつくと、ジノはケータイを切った。
顔を上げると、こちらを見ていたスザクと目があった。

「なぁスザクー、と何かあったか?」
「……別に何もないよ」
「えー。絶対何かあっただろ。
 じゃなきゃ何で2人して私に対してだけ態度が変なんだよ。
 アーニャもおかしいと思うよなー」

急に話を振られたアーニャが、ケータイをつついていた手を止める。
まずジノを見、次にスザクを見て一言。

「浮気?」
「なるほど。そういうことか」

勝手に結論を出され、スザクが慌てて立ち上がる。

「そんな訳ないだろ!大体原因は君が――」

ハッとしてスザクは口を押さえた。
ジノもアーニャもそんなことは端から分かっていたので、スザクの行動に首を傾げる。

「スザク、本当に浮気?」
「違うってば!」
「じゃあ何なんだよ。違うなら最後まで言えばいーだろー」
「自分の胸に手を当てて考えてみればいい」
「分かった」

素直に胸に手を当てたジノに、スザクはハァッと盛大な溜め息をつき、部屋を出て行った。

「冗談だったんだけどなぁ」
「スザク、真面目だから」

苦笑してスザクの背を見送ったジノに、アーニャが言う。

2人きりになった部屋には、アーニャが再び操作し始めたケータイの電子音だけが響く。

背もたれに体を預けてその音を聞いていると、ふと、もうすぐと会ってからもうすぐ1年になることを思い出した。
その日は2人で過ごす約束をしていたのだが、反故にされてしまうのだろうか。
それともそれまでには機嫌を直してくれるだろうか。
まさか、ずっとこのままだとか?
それは嫌だな。

改めてジノは最後にに会った日からのことを思い返してみた。

まず頭に浮かんだのは目の手術のことだ。
突然手術をしたいと言い出したことには驚いたが、別段不思議なことでもなく、むしろそう思うのは当たり前のことだと思ったので、の意志に任せた。
もっと積極的に賛成するべきだったろうかとも思ったが、盲目であることを気にしていると思われたくなかったので、あえてあれ以上言わなかった。
の機嫌を損ねたとも思えない。

では帰還をすぐに知らせなかったことだろうか。
帰ってきたのが遅い時間だった上、次の日は報告書やら来訪者があったりやらで知らせるのが遅くなってしまった。
だががこれしきのことで怒るとは思えないし、その返事すらきていないところをみると、原因はそれよりも前だろう。
遠征中に何かあったのならジノには想像がつかない。

結局何も解決しないまま、ジノは記憶を辿るのを諦めた。

『本当に今はご婚約者さましか見えてないのね』

先日会った女性に言われた言葉が脳裏をよぎる。
以前何度か関係を持ったことのあった女性だった。

イヤミのつもりだったのだろうが、ジノはその通りだと納得していた。
すんなりそう認めてしまえるほどなのだから、今の状況は相当ツライ。

出来るだけ早くに会いたいと思う。
それで言葉を交わして、笑いあって…、あーでもは余り笑わないんだよな。
いつも困ったような顔をしていて、初めて見た写真の中の笑顔はまだ向けられたことがない。

そんな、婚約などとは名ばかりの関係だから、恋人らしいことは何一つしたことがなかった。
出来るものなら、強く抱きしめて、キスをして、そしてその先のことも――って何を考えてるんだ、私は。
こんなことばかり考えているからに距離をおかれるのだ。

でも、髪に指を絡めるぐらいは許してくれないだろうか。
はふれただけでもビクつくため、彼女の髪が風で揺れる度にその欲求を抑えてきた。

ふと、顔の少し先で揺れるピンクの髪に指を絡めてみた。
ピンクの巻き毛が指に絡みつく。
ふわふわとした感触が心地よい。

多分、の髪は見た感じからして、もっとさらさらしていてこんな風に指に絡みつくことなく指の隙間から落ちていくのだろう。

「何」

物思いにふけっていたジノを、ひどく不快そうにアーニャが睨む。
ジノは苦笑しつつ何でもないと答えて髪を放した。


初出:08.12.20 収納:09.05.23

ずっと1、2、3だったので一応タイトルつけました。
タイトルつけるの苦手。だからヘンなの多いんです。


Close
Page Top

inserted by FC2 system