※未来同棲設定
イルミネーションが煌めきクリスマスソングが流れる街頭を、残業で疲れた体を引きずりながら進む。
世間ではクリスマスだというのに、今日も家に着くのは夜中になりそうだ。
最近ではクリスマスの残業をなくす傾向にあると聞くが、カイには全く縁のないことだった。
(このままだと正月も仕事だな)
せめて日付が変わる前には帰宅しようと置いてきた残りの仕事を思い浮かべて、さらに憂鬱な気分になる。
けれど今更憂えても仕方がないと、家に帰れば出迎えてくれるだろう笑顔でそれを頭の隅に追いやる。
ふと、視界の端に見慣れない屋台のようなものが見えて、カイは足を止めた。
よく見れば、それは屋台ではなく花屋の街頭販売だった。
クリスマスだからだろうか、こんな時間までご苦労なことだ。
カイは少しの間思案して、そのファンシーな装飾のされた花籠に足を向けた。
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玄関の施錠が外れる音がした。
テレビを見ながら舟をこいでいたマックスは、そのガチャリという音に跳ね起きて、すぐに玄関へ向かう。
リビングのドアを開けると、靴を脱いでいたカイが顔を上げた。
毎日夜遅くまで働いて疲れきったその顔が、マックスを認めて目元を和らげた。
「カイ、お帰りなさい!」
マックスが近寄ると、カイの腕が伸びてきて下頬に触れた。
「……先に寝ていろと言っただろう」
痕がついてるぞと言われて壁に掛けられた鏡を見れば、カイが触れた辺りにくっきりと、抱いて寝ていたクッションの痕がついていた。
「少しうとうとしてただけだヨ」
遅いと分かっているが、子供のようで恥ずかしく、マックスはハハと笑って手でその痕を隠す。
その時、カイが通勤かばん以外にも手にしているものがあることに気づいて、マックスは目を見開いた。
カイはその視線に気づいて、居心地悪げに眼をそらす。
「たまたま目についたんだ」
必要のない言い訳をして、カイは持っていた花束をマックスに押し付けた。
マックスは驚いて、渡された花束をまじまじと見た。
恐らく彼女へのプレゼントだと思われたのだろう、花束はレースやリボンで可愛らしく仕上げられている。
これを持って歩くのは、カイにはひどく恥ずかしいことだっただろう。
それなのに自分のために、と思うと、カイには悪いが嬉しく思ってしまう。
「いらなかったら捨てていいぞ」
「そんなことしないヨ!すごく可愛い。ありがとう、カイ」
「それは頼んでもないのに向こうが勝手にしたんだ」
「でも、カイが買ってくれたんでしょう?ならやっぱり嬉しいネ」
花束を嬉しそうに抱きかかえるマックスに、カイは照れ臭そうにそうか、と返した。
「カイお腹空いてるでしょう?今温めるから、一緒に食べよう」
「一緒にって、まだ食べてなかったのか!?」
「丁度今から食べようと思ってたんだヨ」
「嘘をつけ。寝ていたくせに」
それを笑ってごまかして、マックスはカイの手を引いてリビングへと体を向ける。
しかしカイは掴まれた手を振り払うと、機嫌を損ねてしまったかと振り返ろうとしたマックスを後ろから抱きしめた。
「遅くなって悪かった。クリスマスだったのに」
「仕事なんだからしょうがないヨ」
マックスは自分を包み込む腕に体を預ける。
この腕が多くのものを抱えていることも、カイが毎日一生懸命頑張っていることもちゃんと分かっている。
確かに寂しさは否定できないし、クリスマスぐらい早く帰ってきて欲しいとも思う。
けれど、カイに自分と仕事のどちらが大事かなどと問うつもりはなかったし、カイを応援し、支えたいとも思っている。
出来ればもう少し体を労わって欲しいけれど。
自分の肩に顔を埋めるカイの頭を、マックスは優しく撫でた。
「じゃあ、この花束で帳消しってことで」
「そんなので良いのか」
「こんなのが良いんだヨ」
茶化すように言えば、カイが笑った気配がした。
顔を上げたカイが、マックスに顔を寄せる。
マックスはゆっくりと目を閉じた。
Happy Merry Christmas!
カイはどこまでデレさせていいものか迷います。
(12.12.24)