今日はやけに星が明るい、気がする。
まるで今にも空から溢れて零れ落ちてきそうだ。
そんなありえないことを考えながら、木ノ宮家の庭先に下りたマックスは、ぼんやりと空を見上げていた。
別に星が見たかったわけではないが、何となく感傷的な気分に浸りたくて、賑やかな仲間たちの輪から抜け出してきたのだ。
タカオの家は町から少し離れた場所にあり、周囲に人家も少ないため、夜になると静かで月や星がよく見えた。
ただ、普段はその静けさを忘れさせるほどに木ノ宮家は賑やかで、ゆっくり空を見上げる暇もない。
けれど、それも今日で終わりだ。
だから、何となく普段とは違うことをしてみたくなったのかもしれない。
マックスは寒気を感じて両腕をさすった。
そんなに時間は経ってはいないと思ったが、体が冷えてきたようだ。
少し前までは夜になっても寝苦しい暑さが続いていたというのに、ここ数日急に冷え込んできていた。
季節は着実に移り変わろうとしている。
楽しい時間はもう終わりだ、とでも言うように、それはじわじわと近づいていた。
「風邪ひくぞ」
いつからそこにいたのか、声はすぐ傍で聞こえた。
優しい声音に、とくんと胸が鳴る。
振り向けば、レイが濡れ縁からマックスを見下ろしていた。
その顔は声音と同じく優しく微笑んでいる。
「中に入らないのか?」
「うん」
短いマックスの返答に、そうか、と頷いて、レイはその場に腰を下ろした。
そうやって、彼はいつも何も言わず傍にいてくれた。
単に2人でいる時間が多かったせいもあるが、いつの間にか、そこにあるだけで安心できるようにまでなっていた彼の気配は、明日からもうない。
「明日、何時の便だっけ」
本当は覚えていたけれど、別れのカウントダウンが寂しくて、その寂しさを飲み込んでしまいたくて、マックスは何度目かの問いをレイに尋ねた。
「11時過ぎの便だ。ここを出るのは10時前だな」
レイも律儀に同じ答えを返してくれる。
その瞳には迷いがなくて、やはり彼は強い人だと思った。
レイだけではない。
タカオもカイも、少し淋しそうではあるがキョウジュも、いつかは分からない再会が必ず来ると信じている。
マックスとて、自分達の間にある絆が脆いものではないと信じている。
それでも幼い頃からの苦手意識というものはなかなか消えないもので、何度経験しても別れ際は気が沈むのだった。
「マックス」
レイがマックスへ手を差し出す。
それに吸い寄せられるように、マックスは彼に2、3歩近づいた。
「そんな顔するなよ」
ちょっと困ったように片眉を下げて、レイがマックスの頬に触れた。
骨ばった指が丸みをなぞるようになで上げ、そのままそっと包み込む。
冷えたマックスの体に、冷たい、と呟いた。
余り高くないはずのレイの体温が普段より温かく感じるくらいだから、思ったよりも自分の体が冷えてしまっているのだろう。
マックスはレイの手に頬をすり寄せ、自分のそれを重ねた。
その姿がまるで捨て置かれる子犬か子猫のようで、レイは一層弱ったように笑った。
マックスの家庭環境を考えれば、今の彼の心理はまさにそれそのものなのかもしれない。
ならば、レイは捨て置く身勝手な飼い主か。
マックスが寒さで僅かに体を震わせた。
それがますますレイの想像と重なる。
「別に永遠の別れってわけじゃないんだぜ?」
「でも淋しいヨ。レイは淋しくないの?」
そう尋ねてから愚問だったと思い直す。
レイは仲間――彼にとっては家族そのものか――の元へ帰るのだから。
彼にとって自分達との別れは、淋しさだけではなく、仲間との再会の喜びに繋がるのだ。
レイも、そうだな、とマックスの問いに頷く。
「あまり淋しくはないかな。またいつか会えると分かっているし。それに俺は会いたくなったら自分から会いに行くぞ」
何ともレイらしい言葉だ。
おそらくタカオ達も同じことを言うだろう。
彼らは別れさえも次への原動力にしてしまう。
マックスだってみんなのようになりたいのに。
そんなマックスの心中を察してか、レイがマックスの腕を引いた。
「だから、お前も会いたくなったら会いに来い」
抱きしめたマックスの背を励ますように2、3度叩き、レイはマックスの耳元でそう言った。
「俺は待ってるから」
温かくて強い彼の腕はマックスの淋しさを余計に掻き立てたが、マックスだってみんなと共に成長したのだ。
いつまでも母の帰りを待ち続けるだけの子供ではない。
そう自分に言い聞かせて、マックスは明るい声を出す。
「うん、待ってて。僕、絶対会いに行くから」
マックスはレイの首に腕を回し、力一杯抱きつく。
レイは苦しいと笑いながら、マックスのしたいようにさせてくれる。
いつの間にか、レイにくっついていた体が本来の温かさを取り戻していた。
うじうじマックス。
2002後を想像して書いてたんですが、よく考えたらGレボ当初レイいましたよね;
遊びに来てただけかもしれないけど。
まぁ2次だから……。
(13.01.21)