Rei × Max

全ては君が好きだから




*未来設定




『今、どこにいると思う?』

電話口から流れてきた、久々に聞く愛しい声が、挨拶もすっ飛ばしてレイに問いを投げかける。

久しぶりの電話に喜んだのも束の間、レイは予想外の第一声に首を傾げた。
どこ、というのが地名なのか場所なのかも分からず、取り敢えず無難に「家」と答える。

その答えに、電話の向こうの彼は得意げに鼻を鳴らした。

『No、no、正解はネ、――』

彼の口にした答えを聞いた途端、レイは金色の瞳を大きく見開いた。

○ ● ○ ●

「ライ!少し出てくるから後を頼む!」

既に夜も更けているというのに、行き成り戸を壊さんばかりの勢いで自宅に飛び込んできた上司兼幼馴染に、ライは口に含んでいた茶を危うく吹き出しかけた。

げほげほと咳き込むライには目もくれず、レイは要件だけ告げるとすぐに踵を返そうとする。

ライは慌てて立ち上がると、戸をくぐりかけていた彼を呼び止めた。

「ちょ、ちょっと待て!どういうことか、ちゃんと説明しろ!」
「電話があって、正解は中国だと、だから行かないといけないんだ!」
「さっぱり訳が分からん。取り敢えず少し落ち着け」

ライは棚からコップを取り出し、茶をついでレイに渡す。

レイは一気に中身を飲み干すと、大きく息を吐いた。
幾分か落ち着いたようだ。

再度ライがどうしたのかと問うと、レイは床に視線を落として言いにくそうに口を開く。

「マックスから電話があったんだ。今中国に来ているから、会って話したいことがあると。それで……」
「マックスって、BBAの水原マックスか?何でまた急に」
「さぁ……、どうしたんだろうな」

視線を横に逸らし、自嘲気味にレイが言う。
明らかに心当たりがあると分かる口ぶりで、そもそも隠す気がないのだと分かる。
要するに、何も聞くな、ということだろう。

ライは大げさにため息をつき、頭を掻いた。

「言いたくないなら言わなくても良いが……ちゃんと帰ってくるんだろうな?」

最近は落ち着いているが、レイは一度こうと決めたらそのままどこまでも突っ走ってしまう所がある。
加えて、元BBAのメンバーはレイが一際大事にしている友人だ。
マックスが何と言ってきたのかは分からないが、レイがあれほど慌てていたのだから、只事ではないのだろう。
急に訪中するほどの事情がマックスにあるならば、人情に厚いレイがまた突っ走らないとも限らない。
レイの補佐として、また友人として、それは避けたかった。

ライの胸の内を察したレイは、目を細めて頷いた。

「大丈夫だ。自分の立場も責任も分かっている。出来るだけ早目に戻る」

嘘偽りない強い眼差しが、ライを正視する。

「そうか……なら良い。わざわざこっちまで来てくれたんだ、ゆっくりしてきても構わないぞ。他の奴には明日俺から話しておこう」
「ありがとう、ライ。助かる」

空になったコップを返し、今度こそレイは背を向けた。
戸をくぐると、すぐさま風を纏って走り出す。
いつ見ても惚れ惚れする身のこなしだ。

ライは戸口に立ち、夜の闇に消えるその背中を静かに見送った。

○ ● ○ ●

レイは電話で告げられた部屋を目指して、ビジネスホテルの廊下を進んでいた。
早く行かなくては、と急く気持ちに反して、足取りは重い。

(直接会うのは久しぶりだな……)

マックスだけではなく、元BBAのメンバー達とも久しく会っていない。
昔は事あるごとに来日していたが、正式に長になり、任される仕事や責任が増えるにつれ、会う回数も減っていた。
元々、山奥で旧来の暮らしをしている白虎族と都心で暮らす彼らとでは生活のリズムが異なる。
その上、年を重ねれば重ねるほど互いの仕事や生活も忙しくなっていた。

それでも、遅まきながらも取り入れた通信技術のおかげで以前より容易に連絡を取れるようになったし、少々疎遠になるのも大人になれば致し方ないことだ。

それが、友人ならば。

タカオやカイ、キョウジュとはそれでいい。
だが、マックスとはそうはいかない。
マックスは友人と言う括りだけの関係ではないのだから。

大っぴらに言えない関係ではあるが、だからこそ、密に連絡を取り、気に掛けなくてはならなかった。
しかし忙しさを言い訳にそれを怠ったのは、他ならぬレイ自身だ。
今更何を言われても仕方ない。
例え、それが別れだったとしても。

マックスが滞在している部屋の前まで来て、ドアに付けられた、部屋番号を記したプレートを凝視する。
呼出ボタンに指をかけたが、押すことには躊躇いが生じる。

この扉の向こうにマックスがいる。
レイは初めて、マックスに会うことを怖いと思った。
だが、いつまでもこうして突っ立っている訳にもいかない。

意を決してボタンを押すと、程なくしてスピーカーからマックスの声が応答した。
レイが来訪を告げると、驚きの声の後、勢いよくドアが開いた。
変わらないタンポポ色の髪が覗き、次いで現れた大きな青の瞳がレイを認めて輝く。

「レイ!こんなに早く来てくれるとは思わなかったネ」

笑顔で室内に招き入れられ、レイはひとまず安堵の息を吐いた。
恐れていたような話ではないのかもしれない。

勧められてベッドに腰を下ろし、マックスに差し出されたペットボトル飲料で一息つく。
隣に座ったマックスに向き合うと、レイの方から話を切り出した。

「それで、話って何なんだ?わざわざこっちに来るぐらいなんだから、何か大事な話なんだろう?」
「こっちには仕事で来たんだヨ」

現在マックスはBBA系列の組織でベイブレード開発関係の仕事をしている。
今回は中国のBBA支部に出張に来たのだと言う。

自分の不安をあっさり否定され、レイはがっくりと肩を落とした。
勝手に色々と想像したのは自分だが、焦って損をした気分だ。

「事前に教えてくれれば空港まで迎えに行ったのに」
「驚かせたかったんだヨ。ビックリした?」
「ああ」

二重の意味で。

マックスは大成功だと嬉しそうに笑っている。

「ところで、レイ」

笑いを収め、やや神妙な面持ちで、マックスがレイを見る。

「最近調子はどう?忙しい?」
「それなりに、かな」
「そっかぁ……」

残念そうに呟くと、マックスは考え込むように首を傾げた。

決まり文句のような会話だが、レイにとっては耳の痛い話だ。
笑顔で出迎えてくれたからといって、これまでのことを全く不満に思っていないはずはない。
嫌な汗が背を流れるのを感じながら、レイはマックスの顔色を伺う。

「やっぱり忙しいよねぇ」
「いや、でも、ライにゆっくりしてきてもいいと言われたから、時間はあるぞ?」
「んー、そういう話じゃないんだよネ」
「じゃあどういう話なんだ!」

痺れを切らしてつい声を荒げてしまい、慌てて口を押さえる。

だがマックスは大して気にした風もなく、ごめんごめんと顔の前で手を合わせた。

「あのね、僕、こっちで働くことになったんだ」
「……は?」
「だから、BBAの中国支部で働くことになったの。国際協力ってやつ?こっちの人達と技術提携するんだって」

これまでの実績で選ばれたのだと、マックスは胸を張る。
確かに、高い技術力やブレーダー時代からの豊富な渡航経験加え、フレンドリーな性格の彼には適任だろう。

しかし、レイは驚いて目を瞬かせた。

「お前……アメリカに行きたいんじゃなかったのか?」

かつて、母親と共に研究をするのが夢だと語ったのは、他ならぬマックス自身だ。
その時の希望に満ちた瞳は今でもはっきり覚えている。
共に世界を目指していた時のような、きらきらと輝く眼だった。

「うん、それは今でも夢だヨ。それに、実はママにも誘われたんだ。アメリカに来ないかって。でも、今の僕にはこっちの方が大事だと思ったから」
「こっち……?」
「うん。ママは大好きだけど、レイの近くにいる方が、今の僕には大事なの」

初めて会った頃と何ら変わりない、屈託のない笑みがレイに向けられる。
あの頃と同じ信頼と友愛に、あの頃にはなかった深愛の情を交えて。

「レイは忙しいし、余り村を離れられないでしょ?だから、今度は僕がレイに会いに行くヨ」

決意を秘めた言葉に、レイは思わずマックスへと腕を伸ばし、自分よりも小柄なその体を抱きしめた。
マックスは大人しく身を任せてくる。

「すまなかった」
「何で謝るの?」
「忙しさを言い訳にしてお前を放っていた。お前はちゃんと色々考えてくれていたのに」
「忙しかったなら仕方ないヨ」
「違うんだ」

勿論全く忙しくなかった訳ではない。
それでも来日する時間を作れないほどではなかったし、連絡手段ならそれこそ幾らでもあったのだ。
それすらも怠ったのは、忙しさだけが理由ではない。

「怖かったんだ。お前が遠くに行ってしまいそうで」

大人になればなるほど身動きが取り辛くなっていく中で、夢を追いかけるマックスは簡単にレイの手の届かない所へ飛び立ってしまいそうだった。
それが彼の望みなら、レイに止める権利はない。
そもそも止めたとして何になる。
マックスを自分の手元に置いておくことは出来ない。
日本と中国という隔たりを簡単には越えられなくなった今、この関係を続けることはマックスのためにならないだろう。
しかし、レイには自分から別れを切り出す度胸もない。
マックスのためではなく、自分のためだけに、終わりに出来なかった。

「そう思ったら、もう簡単には手放してやれないことにも気付いた」

自分がこんなにも独りよがりだったことに驚いて、嫌気が差した。
そして、マックスにどう接したらいいのか分からなくなった。

「手放さなくていいよ」

手放さないで。
マックスは小さく甘えた声で懇願し、擦り寄るように身を寄せた。

レイは自分より頭一つ分低い位置にあるマックスの顔を覗き込む。
明るい蒼の瞳が、薄暗い灯りの下でどこか不安気に自分を見上げて来る。
レイは彼の、青年にしては丸みを帯びた柔らかい頬をそっと撫でた。

マックスは、どんな想いでこの国へ渡ることを選んだのだろう。
明るい口調だったが、渡米への迷いがなかったはずがない。
ずっと望んでいた、大好きな母親が自分を認めて差し出してくれた手を、自ら捨てたのだ。

いや、レイが捨てさせたのだ。

今更罪悪感を感じて、レイはわざと軽い口調でマックスに笑いかけた。

「後でやっぱり止めてと言われてももう無理だぞ?」
「確かに、レイはしつこそうだよネ」

からかう様に、くすくすと笑い声を漏らす唇を塞ぐ。
久々に触れた柔らかい感触を楽しみながら数回ついばむ。

マックスの腕がレイの首に回されたのを合図に、2人はゆっくりと体をベッドに倒した。

口づけを繰り返しながら、シャツの中に侵入させた手でマックスの体を愛撫する。
久々の触れ合いを楽しむことよりももどかしさの方が勝り、ついいつもより性急に動いてしまう。

マックスも抑えがたいのか、普段より積極的に舌を絡ませてきた。
早く、早くと言うように、形を変え始めた自身をレイに押し付けてくる。

レイは服の上からそれを確認するように撫で、中に手を滑り込ませると、優しく握りこむ。

マックスがびくりと体を震わせた。

「あ…ぁ、レイ、んん……っ!」

何度か扱いてやると、マックスは白濁を吐き出して果てた。
肢体を脱力させたまま、マックスは快感に耐えるようにじっと目を閉じて浅い呼吸を繰り返す。
レイが乱れた前髪をかき上げると、ふるりとまつ毛を震わせて、薄く目を開いた。

「レイ……」

切なげな声がレイの名を呼ぶ。

レイはごくりと唾を飲み込んで、マックスの吐き出した精液を受け止めた掌を彼の秘部にあてがい、手の中のそれを擦りつける。
久しぶりの行為だから、マックスになるべく負担をかけないように入り口から念入りにほぐしていく。

シーツを握りしめるマックスの手に自分の手を重ね、額や鼻先に口づけを落としてやる。
徐々に強張っていた表情が緩み、体からも力が抜けていく。
そうして、少しずつ奥へと指を埋め込んでいく。

ゆっくり時間をかけていると、しつこいとも取れる前戯に焦れたマックスが、体をよじらせた。

「もう、いいヨ」

既に熱を持て余して余裕のなかったレイは、承諾に頷き、引き抜いた指の代わりに張りつめた自身を挿入する。

「ぅぁ……、く……」

背をしならせ、マックスが呻く。
辛そうに胸で浅く呼吸を繰り返しながら、必死で自身の中に入ってくるレイを受け入れようとする。
しかし苦しげに眉を寄せていたマックスも、しだいにレイの動きに合わせて腰を揺らし始める。

「ん、レイ……、好き、だヨ」
「あぁ……俺も、だ」

2人はほぼ同時に果てた。

レイが体を離そうとすると、反対にマックスは腕を伸ばして自身の方へと引き寄せる。
少し無茶をさせたかと思ったが、マックスにはそれほど大きなダメージはなかったようだ。
満足げにレイの頭を抱え込んでくる。

「ねえ、レイ。これだけは忘れないでネ」

小さいけれど、しっかりした声が言う。

「手放せないのは僕も同じだってこと」

○ ● ○ ●

シャワーを浴びて再びベッドに転がると、マックスはすぐに大きな欠伸をした。
レイの腕を枕代わりにし、目を閉じる。
気が緩んでふにゃふにゃした口元は子ども頃から変わらない。

眠りに落ちていくマックスの顔を穏やかな気持ちで見つめていたレイは、ふと先程の会話を思い出した。

「そう言えば、お前何か言いたいことがあったんじゃないか?」
「えぇ……?」
「ほら、俺がつい怒鳴っただろう。あの時だよ」

眠たげに眼を瞬かせるマックスに、まあ明日でもいいかとレイが思い直した時、マックスはようやく思い出したらしく、半分閉じていた目をぱっちりと開けた。

「あぁ、うん、あのこと。大したことじゃないんだけさ、僕まだあまり中国語話せないから通訳を探してたんだ。一応用意してくれてはいるみたいなんだけど、あまりベイに詳しくない人みたいなんだよネ。出来ればベイに詳しい人がいいんだけど、かと言ってこっちの支部の人に僕につきっきりになってもらうわけにもいかないし。レイなら適役だな、と思ったんだけど……マオやキキ達には頼めないかなぁ?」
「何だ、それくらい俺がやってやるぞ」

レイの頭をちらりとライの顔がよぎったが、心の中で謝って目をつむらせてもらうことにする。

「え、でも、僕が慣れるまでだから結構長期になるヨ?」
「あぁ、大丈夫さ。日本ほど距離が離れているわけでもないし、何よりうちには優秀な部下が揃ってるからな。何かあればすぐ戻れるし、俺が少しくらい村を空けても大丈夫だろう」
「Wow!ホントに?」

嬉しげな声を上げて抱きついてきたマックスを抱き返しながら、出がけに見たライの表情と交わした会話を思い出す。
本当は大丈夫とは言い切れないのだが。

(まぁ、これぐらい許容範囲内だろう)

そう勝手に結論付けると、ライの顔を無理矢理思考の外に追い出す。
そして代わりに、これからの生活に思いを馳せ、腕の中の暖かな幸福を噛みしめた。

久々に場面がころころ変わるものに。
エロはいらないかなぁと思いつつ書いてたら、いつにもまして中途半端な描写になってしまいました(´・ω・`)
(title by リライト)

(12.11.06)

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