マリナが笑った。
息苦しさのせいだろう、涙を瞳にたたえて、マリナは微笑む。
刹那は驚いて手の力を緩めた。
激しく咳き込むマリナをしばらく呆然と眺める。
―――俺は今、何をしようとした?
頭が急激に冷えていく。
落ち着いたマリナが、ゆっくり頭をもたげ、こちらを見る。
自分が何をされていたのか分からないわけではないだろうが、その瞳に怒りの色はなかった。
だが、逆にそれがひどく居心地が悪い。
「刹那・・・・・・?」
やけに遠くでマリナの声が聞こえる。
どう反応していいか分からず、刹那は頷く。
「夢じゃなかった・・・」
マリナは刹那の首に腕を回し、肩に顔をうずめる。
刹那は抱き返すことも出来ず、只マリナを見下ろしていた。
動かない刹那に、マリナが口を開く。
「刹那の夢を見たの。それで目が覚めたら本当に刹那がいて驚いたわ」
「・・・・・・」
「刹那はいつも突然来るのね。何時来るのか教えてくれれば、ちゃんと起きて待ってるのに。
そうすれば―――」
「・・・・・・マリナ」
「そうすれば、もう少し長く話が出来るわ。まあ、刹那はあまり話さないけど」
「マリナ」
「言わないで」
首に回されたマリナの腕に力がこもる。
「私は今のままでいいの。これ以上何も望んでないわ。だから・・・・・・」
「・・・・・・分かった」
泣きそうな声で懇願され、刹那はマリナの背に腕を回す。
現金なもので、マリナのたった一言で先ほど悩んでいたこと全てがどうでもよくなっていく。
マリナが望むのならば、このままでいようと思う。
例えその先に明るい未来がなかったとしても。
どちらにせよ、もう自分は、自らこの温もりを手離すことなど出来ないのだ。
病的・・・;;
(08.08.12)