「10日?」

何かあったっけ?とスザクは今後の予定を思い浮かべる。
テストも終わり夏休みへのカウントダウンが始まったこの時期、これといった学校行事もミレイの突発的生徒会活動も予定されていない筈だ。

本当に心辺りがないといった風のスザクに、は呆れと驚きの入り混じった顔で凝視する。

「7月10日、何の日か覚えてないの?」

そう言われれば何か引っかかるものはある。
けれど胸の奥につっかかって出てこない。
それが酷く気持ち悪くて、スザクは眉間に皺を寄せた。

は軽く溜め息を吐いて、そっとスザクの眉間に触れる。
優しく撫でられたのがくすぐったくて、スザクは目をつむった。

は言葉を選ぶように逡巡した後、言い難そうに口を開いた。

「7月10日、スザクの誕生日でしょ?」

あ、と目を見開くと、苦笑すると目が合う。

眉間に置かれていた白い指が離れた。

「誕生日忘れちゃうぐらい忙しいの?」
「そういう訳じゃないんだけど……」

忙しいには変わりない。
だがそれ以前に、7年間誰にも祝われることのなかった誕生日は、スザクの中で年々重要度を下げていた。

「絶対学校来てね。生徒会でパーティーするからさ」

自分の誕生日のように嬉しそうに笑うに、スザクはとっさに言葉が返せず、微妙な間があく。
その反応に勘違いしたが、申し訳なさそうに眉を下げた。

「やっぱり忙しい?無理かな?」
「いや、そうじゃないよ。ただ……」

口ごもるスザクの言葉を、は不思議そうな面持ちで待つ。

祝ってくれる人にこんなの言うのもどうかと思うけど、と前置いて、スザクは頬を人差し指で掻いた。

「僕なんかの為にわざわざ悪いな、と思って」
「何言ってんのよ」

がわざと怒ったような顔をして、スザクを見上げる。
スザクの鼻先に指を突き出し、上下に振って、子供に言い聞かせるように言った。

「誕生日って生まれてきてくれて有難うって私達がスザクに感謝する日でしょ」
「そうだっけ……?」

自分の持っていた誕生日の概念と些か外れているの自論に、スザクは突きつけられた細い人差し指を眺めながら首を傾げる。

「そうだよ」

が自信満々に言い切るので、スザクも何となくそういう考え方もあるのかと納得して頷いた。
それでもやはり、自分の生に感謝される価値があるのだろうか、と胸中で首を傾げる。

そんなスザクの戸惑いを吹き飛ばすようにはにこりと笑い、スザクの眼前で止めていた指で彼の額を軽く弾く。

「だから、時間取れるなら放課後でもいいから来てね。ちゃんと祝わせて」

先程のの主張からするに、は自分が生まれてきてくれたことを喜んでくれているらしい。
そう思うと、現金なことに、それだけで自分の生に価値があるように思えてくるから不思議だ。

「分かった。きっと行くよ」
「ほんと?有難う!」

本当は自分が礼を言う立場であるはずなのに満面の笑みで礼を言われ、スザクはくすぐったい気持ちで笑い返した。

また明日、と手を振って、は玄関へと足を向ける。

スザクもそれに返すと、アーサーに餌をやるために鼻歌まじりで生徒会室に向かった。

「この年になって誕生日が楽しみになるなんて思わなかったな」

指折りで誕生日までの日にちを数え、自分でも何と年寄り臭い発言だろうと思いつつ一人ごちる。

始終嬉しそうだったの顔が脳裏に浮かんで、スザクはくすりと笑った。
この気持ちだけで既に最上級の誕生日プレゼントになっているなんてこと、は知りもしないのだろう。



Happy Birthday! Suzaku!



珍しく誕生日に間に合いました^^
スザクずっと大好きだよ!

(10.07.10)

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