生まれつき体が弱かった。
学校にちゃんと通えたのは1年生のときだけだったし、大人になるのは難しいかもしれないと、医者が両親に話しているのを聞いてしまったこともある。
けれど、私はそれでも良かった。
部屋からほとんど出られなくても、友達が少なくても、私は全く構わなかった。
だって、毎日<彼>が来てくれたから。
私の大好きな笑顔を連れて。
ほら、今日も――。
「!」
スザクがいつものように、開け放たれていたガラス戸から中に入ってくる。
座敷に上がると、布団の上で上半身だけ起こして本を読んでいた私の隣に腰を下ろした。
「明日、父さんが帰ってくるんだ!しかも藤堂先生と一緒に!!」
「そう、良かったね」
本当は、おじさんや藤堂さんが帰ってくるとスザクの帰宅が早くなってしまうので、私にとっては余り良い報せではなかった。
だが、スザクがあんまり嬉しそうに笑うので、私も嬉しくなって一緒に笑う。
スザクは、父親と藤堂がいかに素晴らしい人間で、自分も彼らのようになりたいこと、将来は父親と同じ首相になりたいことを饒舌に語った。
それは既に何度も語られたことのある内容だが、スザクはいつも頬を上気させて明朗に話す。
よほど強い思いなのだろう。
自分の夢を話し終えたところで、スザクは次の言葉を口ごもった。
珍しく話に続きがあるらしい。
「どうしたの、スザク?」
「あ、あのさ」
意を決したように顔を上げたスザクと目が合う。
「、大人になったら、俺のお嫁さんになれよ」
話の流れについていけずキョトンとする私に、スザクは顔を赤くしながら一生懸命言葉を紡ぐ。
「だ、だからさ、は大人にならなきゃ駄目なんだ」
あぁ、そういうことか。
納得する私に、スザクはもう一度、大人にならなきゃ駄目だ、と言った。
「私の病気のこと、聞いたの?」
スザクは何も言わなず、小指を立てた右手を差し出す。
それが答えだった。
スザクの言う未来図の実現は難しい。
おそらく実現しない可能性の方が高い。
それでも不思議と、スザクとの未来なら叶うような気がした。
私はおずおずとスザクの小指に自分の小指を絡める。
それを見て、スザクは照れたように、けれど嬉しそうにはにかんだ。
儚 い ミ ラ イ ズ
(だって泣いてしまいそうになったんだ。多分言わなくても君は分かってる)