「じゃあ、後で」
それが、彼の最後の言葉だった。
彼はいつも嘘つきだった。
大丈夫じゃないのに大丈夫だと言い、楽しくもないのに周りに気をつかって笑った。
そして、最後の時も。
『じゃあ、後で』
彼の言った<後>は10年経った今も訪れていない。
今でも、この扉に消えた――正しくはこの扉の中でだが、私は当時15に満たなかったので中に入れず、この扉の前で彼と別れたのだ――少年の背中を鮮明に思い出せる。
今なら、彼が時折見せた寂しげな表情の意味も分かるし、かけてあげられる言葉もある。
それに、まだ伝えていない、今も忘れられない想いもある。
なのに肝心の彼がいない。
「嘘つき」
誰に言うでもなく零れた呟きは、辺りに静かに響いて溶けた。
けれど返ってくる声はない。
「オズの嘘つき」
やりきれない想いが彼への悪口となる。
久々に彼の名を呼んだ声は僅かにかすれた。
「誰が嘘つきだって?」
思いがけず、背後から声が返ってきた。
それは聞こえるはずのない声。
ずっと聞きたかった声。
振り返れば、記憶の中の姿と寸分違わぬ彼が私に笑いかける。
「久しぶり、」
懐かしのウソツキショウネン
(それは嘘ではなくなりました)