No.007

懐かしの

「じゃあ、後で」

それが、彼の最後の言葉だった。



彼はいつも嘘つきだった。
大丈夫じゃないのに大丈夫だと言い、楽しくもないのに周りに気をつかって笑った。

そして、最後の時も。

『じゃあ、後で』

彼の言った<後>は10年経った今も訪れていない。

今でも、この扉に消えた――正しくはこの扉の中でだが、私は当時15に満たなかったので中に入れず、この扉の前で彼と別れたのだ――少年の背中を鮮明に思い出せる。

今なら、彼が時折見せた寂しげな表情の意味も分かるし、かけてあげられる言葉もある。
それに、まだ伝えていない、今も忘れられない想いもある。
なのに肝心の彼がいない。

「嘘つき」

誰に言うでもなく零れた呟きは、辺りに静かに響いて溶けた。

けれど返ってくる声はない。

「オズの嘘つき」

やりきれない想いが彼への悪口となる。

久々に彼の名を呼んだ声は僅かにかすれた。

「誰が嘘つきだって?」

思いがけず、背後から声が返ってきた。
それは聞こえるはずのない声。
ずっと聞きたかった声。

振り返れば、記憶の中の姿と寸分違わぬ彼が私に笑いかける。

「久しぶり、




(それは嘘ではなくなりました)

1度は書きたかったオズ夢。
title by : 追憶の苑

(初出:10.02.03)
(修正、収納:10.03.23)

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