開けていた窓から、風に乗ってピアノの音色が聞こえてきた。
真っ先に気付いたエリオットが、読んでいた本から顔を上げ、窓の外に向ける。
机越しに向かい合って本を開いていたリーオも、やや遅れて彼に続く。
聞こえてきた演奏はお世辞にも上手いとは言い難い。
だが、たどたどしいながらも繰り返し引くうちに滑らかになっていく様は、聞いていて微笑ましい。
「ヘタクソ……」
思わず零れた、といった感じの呟きと僅かに緩んだエリオットの口元で、リーオは引き手が誰であるかを悟った。
「ちゃん頑張ってるね」
リーオが出した少女の名に、エリオットがピクリと反応する。
揶揄する響きでも感じたのか、エリオットがリーオを軽く睨む。
深い意味はない、と肩をすくめると、リーオは本へと意識を戻す。
反対に、エリオットは再び窓の外へと視線を向ける。
『上手に弾けるようになったら、私と連弾してくれない?』
ご褒美があった方が頑張れるから、と先日勢いこんで言ってきた彼女を思い出すと頬が緩むのは、仕方がないことだとエリオットは思う。
今更なのでリーオに隠してもしょうがない。
早く1曲ぐらい弾けるようになれ。
リーオが聞けばに言ってやれ、と言うだろう台詞を胸中で呟き、エリオットは椅子に寄りかかって途切れ途切れに聞こえてくるメロディーに耳を傾けた。
愛しいセンリツ
(君の音)