No.012

甘い

彼女が動く度にさらりと揺れる髪に触れたいと、初めて思ったのはいつだっただろう。



アスベルは鏡に映るソフィを眺めながら記憶を辿る。
髪を下ろしたソフィは普段よりも少し大人びて見える。

「自分で出来るよ」

どこか不満げに見上げてくるソフィを笑顔で制し、アスベルは彼女のつややかな髪にブラシを当てる。
ブラシの動きに合わせてふわりと動いた髪から花の香がした。

「アスベル、何笑ってるの?」
「え、笑ってた?」

コクリとソフィが頷く。

「何でもないよ。只、良い匂いだな、と思って」
「匂い?」

不思議そうに首を傾げるソフィは、そんなことを言われたことはないと言う。

「なら、俺にしか分からないのかもな」

口に出してから、本当にそうかも知れないとアスベルは思う。
同時に、そうなら良いのにとも思った。

ソフィはますます訳が分からないという顔をする。

彼女に前を向くように言うと、今度ははっきりと頬が緩むのを感じながら、アスベルは再びブラシを動かし始めた。




(それは愛しい香)

何故か自分の書くソフィは髪下ろしてる率が高い。
ツインテール好きなのになぁ。
title by : 追憶の苑

(初出:10.02.21)
(修正、収納:10.04.02)

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