彼女が動く度にさらりと揺れる髪に触れたいと、初めて思ったのはいつだっただろう。
アスベルは鏡に映るソフィを眺めながら記憶を辿る。
髪を下ろしたソフィは普段よりも少し大人びて見える。
「自分で出来るよ」
どこか不満げに見上げてくるソフィを笑顔で制し、アスベルは彼女のつややかな髪にブラシを当てる。
ブラシの動きに合わせてふわりと動いた髪から花の香がした。
「アスベル、何笑ってるの?」
「え、笑ってた?」
コクリとソフィが頷く。
「何でもないよ。只、良い匂いだな、と思って」
「匂い?」
不思議そうに首を傾げるソフィは、そんなことを言われたことはないと言う。
「なら、俺にしか分からないのかもな」
口に出してから、本当にそうかも知れないとアスベルは思う。
同時に、そうなら良いのにとも思った。
ソフィはますます訳が分からないという顔をする。
彼女に前を向くように言うと、今度ははっきりと頬が緩むのを感じながら、アスベルは再びブラシを動かし始めた。
甘いハナノカオリ
(それは愛しい香)