見上げた先は暗闇だった。
月も星もない夜は、姉と肌を寄せ合って、屋根のない場所で眠った日々を思い出す。
「どこ見てるんだ、ジーニアス」
ロイドの指が、今までの行為の激しさとは裏腹に、優しく僕の頬に触れる。
「勿論ロイドだよ」
僕は微笑んで嘘を付いた。
いくらロイドだってすぐに見破れるような、意味のない嘘だ。
ロイドの不満げな顔が子供じみていて、たった今まで、獣のように僕の体をなぶっていた人間と同一人物だと思うと何だかおかしかった。
これ以上の追求も面倒なので、矛先を逸らそうと、僕の中に入ったままになっていたロイドを締め付ける。
「……っ!」
ロイドは迷うようにちらりと僕を見たが、彼の天平はあっさり快楽の方へと傾いた。
ロイドがやや荒っぽいキスを落とす。
欲望を押さえようとするも、押さえきれない、そんな感じ。
押さえないで。
押さえようとしないで。
僕は君の全てをこの体に刻みつけて欲しいのだ。
ロイドの手を探してシーツの上をさまよっていた僕の手を、ロイドが握る。
どちらからともなく指を絡める。
間近で見つめ合うと、互いを繋ぐ白い糸がうっすら見えた。
「動くぞ」
言うやいなや、ロイドは腰を動かし始める。
せっかちだ、などと茶々を入れる間もなく、甘い痺れが下半身に広がる。
「んっ、あ、あぁ……っ!」」
正直なところ、僕は汗ばむ肢体も結合部の粘着質な音も不快だった。
だが行為自体は嫌いじゃない。
セックスは<繋がる>、<ひとつになる>とも言う。
ロイドと繋がる。
ロイドとひとつになる。
なんて甘美な響きだろう。
僕はその響きに酔いしれたかのように、うっすら口元を歪ませる。
「ロイド、もっと」
もっと、君で僕を一杯にして。
ねだる僕に、ロイドの瞳がゆらりと揺れ、応えるように律動が早くなる。
「っ、ぁ、あぁぁぁ……!」
僕は、ロイドを煽るように、腰を震わせて只ただ鳴いた。
普段の僕なら決して自分に許さないような、これ以上ない痴態だ。
それを真っ白になった頭のせいにして、僕は快楽を貪る。
これは、皆に平等に優しいロイドが、僕だけに与えてくれる、僕だけを求めた証なのだ。
「ろいど、いい、よ…っ、もっと、もっとぉ……!」
「ジーニアス……ッ」
まだ足りない。
もっと欲しい。
何故なら君が好きだから。
ロイドがぶるりと震え、己を吐き出す。
自分の中を熱いものが満たしてゆくのを感じながら、僕も絶頂を迎えた。
僕らは互いに乱れた息のままきつく抱き合い、心身共に限界だった僕は、愛しい腕の中で意識を手放した。
暗いシンゲツノヨル
(僕の闇が、君を求める)