ぱっくりと口を開け、そこから溢れ出てくる血で真っ赤になった腕を見て、情けなくて泣きたくなってきた。
腕を見つめたまま微動だにしない俺に、シェリアが慌てて駆け寄ってきて治癒を始める。
教官に前に出すぎだと叱られ、目を伏せた。
自業自得なのは重々理解している。
しかし、どうしても自制出来なかった。
自分とモンスターの間に飛び出してきた藤色を思い出して、怪我をしていない方の拳を握る。
また、ソフィに守られてしまった。
少してこずっていたのは間違いないが、ひとりで何とか出来ない相手ではなかった。
なのにソフィがいきなり間に入って来た。
自分をかばう彼女の小さな背を見た途端、頭に血が上ってしまい、考えなしにソフィを押しのけて敵に突っ込んでしまった。
その結果がこのザマだ。
そっと顔を上げると、シェリアの向こうに立つソフィが目に入った。
ソフィは俺の腕をじっと見つめ、自分が怪我をしたかのように痛そうな顔をしている。
その顔を見て、あぁ自分を責めているんだな、と思った。
俺が馬鹿をしたせいなのは明らかなのにソフィが自分を責めるなんて可笑しな話だとは思ったが、それぐらいソフィが自分を、ひいては仲間を大切に思っていることは知っている。
なのに俺は、ちっぽけなプライドのためにソフィにこんな顔をさせてしまった。
「ソフィ……」
「アスベルは私が守る」
強く、はっきりと、ソフィは言った。
既に治療は終わり、俺の腕にあった大きな傷はない。
しかしソフィは俺の腕から目を逸らさず、強い意志を宿した瞳で凝視し続ける。
止めてくれ。
守るなんて言わないでくれ。
俺はもう、君の背中を見ながら戦うのなんて耐えられないんだ。
俺は、君を――。
俺は唇を噛み締めて言葉を飲み込む。
そんなことを今の俺には言う資格がなかったから。
強くなりたい。
強くならなくてはいけない。
俺はゆっくりと握り締めていた拳をほどき、誓うように、その手で消えた傷をなぞった。
苦いオモイヲノミコンダ
(俺は、君を守りたい)