「アリババくん大好き!」
アラジンが無垢な笑顔で俺を見上げてくる。
そのきらきらした瞳は、俺にも同じ言葉を求めている。
それが分かっていながら、俺は曖昧に笑うだけに留めてアラジンの頭を撫でた。
アラジンはくすぐったそうに首をすくめ、それでも嬉しそうな声を上げた。
耳をくすぐる高めの声が、今は胸に突き刺さる。
いつからだろう、アラジンの好意が苦しくなったのは。
決して嬉しくないわけではない。
むしろ嬉しいのだ。
けれど、アラジンが自分に向ける好意と、自分が彼に抱く好意が異なるものだと気づいてしまった時、その喜びは辛酸へと変わった。
そして、じりじりと胸中を焦がす焦燥感との戦いが始まった。
俺の葛藤など知るよしもないアラジンは、その細い腕を俺の腕に絡めてきた。
素肌や服越しに伝わる体温に、俺の心音が跳ね上がる。
アラジンに聞こえているのではないかと思うほどに激しく、心臓がばくばくと脈打っている。
俺は何とか表情には出さないように努めて、じゃれつくアラジンの顔を見下ろした。
愛らしい笑顔に一瞬呆けた俺に、アラジンはさらなる爆弾を投下する。
「アリババくんは、僕のこと好き?」
「え……」
俺が言葉に詰まると、アラジンが悲しげに眉を下げたので、慌てて取り繕う。
「当たり前だろ!俺たち、友達、なんだからさっ」
「なら、僕のこと好き?」
「っ、ああ!好き、に、決まってるだろ」
自分でも不自然なまでにつっかえる俺を、アラジンは胡乱げに見る。
大きな瞳が、本当かと問うてくる。
「アリババくん、最近変だよ。何かあるならちゃんと話して欲しいな」
「何も、ねーよ」
「嘘」
まっすぐな眼差しが、俺を射る。
「ねぇ、教えてよ。アリババくんが考えてること」
「俺が、考えてる、こと……?」
「アリババくん、最近僕といる時いつも別のこと考えてるでしょ。僕、知ってるんだよ」
ねぇ、何考えてるの。
口調は柔らかいが、責めるようにアラジンは言った。
サファイアの瞳が悲しげに揺れる。
幼子をいじめているような心境に、良心がちくりと痛んだ。
俺がいつも考えてたことなんて、そんなの――。
「お前のことだよ。俺、お前のこと考えてた」
俺が嘘を言っているようには見えなかったのだろう、アラジンが戸惑ったように首を傾げる。
俺は無理やり唾を飲み込んだ。
やけに口の中が渇いているように感じる。
俺は腕をほどくと、恐る恐るアラジンの小さな体に腕を回す。
アラジンは抵抗することなく、俺の腕の中に落ちてきた。
そのことにほっとして、俺は抱きしめる腕に僅かに力をこめた。
「俺、お前が好きだよ。……お前の好きとは違うけどさ」
これまで何度も、これは友愛なのだと自分に言い聞かせた。
けれど、わざわざ言い聞かせるという行為が、この気持ちが友人に抱くものではないことを裏付けた。
腕の中のアラジンが身じろぐ。
しばし惑うような間を開けて、困惑した声でアリババくん、と俺の名を呼んだ。
間近で見つめたアラジンは、未だ理解できていないように見えた。
構うものか。
分からないなら分からせてやればいい。
俺はうるさい心臓に気づいていないふりをして、アラジンの唇にキスを落とした。
もう戻れないトコロヘ
(2人で行こうと言ったら、君は頷いてくれるだろうか)