「抑えが効かなくなりそうだ」
隣に寝転んだレイが、マックスの金糸の髪を梳きながら、ぽつりと言った。
先ほどまで獲物を前にした獣のようにぎらついていた目が、今は眠たげに細められている。
マックスは顔だけを動かしてレイを見た。
先ほどまでの情事のせいでひどく体がだるく、話すのも面倒だったので、目だけで何が、と問う。
レイは正しくその視線の意味を読み取ると、マックスを抱き寄せた。
シャワーも浴びてすっかり熱は引いているとはいえ、先ほどの行為を思い出してしまい、マックスは僅かに体を強張らせたが、レイは気づかなかったらしく、マックスの髪に指を差し込んで頬ずりした。
満足そうに深く息を吐く。
力の入っていない今の彼の腕ならマックスでもたやすく逃れられたが、それもやはり面倒なので、大人しく身を任せる。
「そのままの意味だ。どれだけ体を重ねてもまだ足りない」
あれだけがっついておいて何を今更、とマックスは笑ってしまった。
レイは優しいが、その優しさは時としてひどく独善的なものだとマックスは思う。
それは彼の性格を如実に反映しているとも。
しかしそんなレイがマックスは好きだった。
「別に我慢しなくていいじゃない」
明日の予定を頭の中で確認しながら、もう少しぐらいなら大丈夫だろうと判断し、マックスは甘えるような声音で自分からレイに擦り寄った。
しかしレイはマックスの体を引き離し、険しい顔で拒絶した。
「駄目だ。これ以上は明日に響く」
「大丈夫だヨ。明日はゆっくりできるから」
「そういう問題じゃない」
先にくっついてきたのは自分の方のくせに、とマックスは口を尖らせる。
レイ自身が辛いというならまだしも、マックスを理由にするのは止めてほしい。
マックスとてちゃんと明日のことを考えた上で誘ったのだし、それを断られるのはプライドが傷つくというものだ。
幼子にするように布団を掛け直され、マックスはますますふて腐れた。
最早マックスが何と言おうとレイの意見は変わらないだろう。
マックスとてそこまでしてがっついていると思われたくもないので、言い返さない。
昔から、レイは自分の中で結論が出てしまうと頑として動こうとしない。
それが正しいと心から信じているからだ。
その危ういほどの真っ直ぐさが、やはりマックスは好きだった。
だから、惚れた弱みと言うか、結局マックスはレイを責められないのだ。
けれど自尊心を傷つけられたせいで小さな反抗心が拭えず、マックスは寝返りをうってレイに背を向けた。
「何だ、そんなに欲求不満だったのか?」
「そんなんじゃナイ」
「じゃあ拗ねるなよ」
レイが背中から抱きかかえるようにマックスに腕を回す。
性的なものは感じられない、駄々っ子をあやすような手つきだが、くっつかれた方は堪ったものではない。
「シないならくっつかないでよ」
「別にこれくらい構わないだろう」
出た、レイの自分の判断基準で何でも決めてしまう癖。
「もう……、好きにすればぁ」
ため息をついてマックスは反論を諦めた。
もう眠い。
反論するのも面倒くさい。
マックスは忍び寄る睡魔に目を閉じる。
レイのこういう自己中心的なところは嫌いだと思った。
優 し い ヒ ト リ ヨ ガ リ
(結局惚れた僕の負け)