目の前に高く積まれているのは男物のシャツ。
無論の物ではない。
それは所々汚れており、中にはいつ着たのか聞くのすら恐ろしいような、変色している物さえある。
深くは考えまいと先程から一心不乱に洗いつづけているにも関わらず、シャツの山はなかなか小さくならない。
一体何日分溜め込んだのか。
ハァと息を吐き、は腕の間に顔を埋めた。
泡だらけになっている自分の手を惨めに感じて、隣で黙々と洗濯物の山を崩し続ける友人に問いかける。
「ねぇ、ユイジーン。私、サチにいいように利用されてないかしら」
「何を今更」
をちらりとも見ず、ユイジーンは冷たいともとれる声音でばっさり切り捨てる。
だが、ひとりでは無理だからと、こうして手伝いに来てくれた彼は優しい人だと思う。
それに比べて――。
「どうして私はユイジーンじゃなくてサチなんかを好きになっちゃったのかしら」
ハァッと溜め息をついて肩を落とすと、黙々と手を動かし続けていたユイジーンが心底嫌そうな顔をこちらに向けた。
「そんなに嫌そうな顔しなくてもいいのに……」
「いや、君がどうとかじゃなくて内容の問題。そういうことサチの前では絶対に言わないでよ」
「オレがどうかした?」
突然聞こえた第三者の声に振り向くと、そこには食えない笑顔を浮かべる青年が立っていた。
「進んでる?」
シャツの持ち主である彼は、悪びれもせずの手元を覗き込む。
さり気なく肩を引き寄せられ、思いがけず密着する体制となる。
確信犯だと分かっていても顔が熱くなり、は悔しくて顔を背けた。
「洗っても洗っても終わらないわ。サチもさっさと洗いなさいよ」
「んー、その前に」
背けたままだった顔をぐいっとサチの方に向けられる。
息がかかりそうな程近くにあった彼の顔に驚いて目を見開くと、逃げる間もなく唇を奪われた。
自分のものではない柔らかい感触に反射的にギュッと目をつむる。
硬直してが動けないのをいいことに、サチを柔く下唇を食み、舌先を割り込ませて並ぶ歯をなぞる。
更に中まで侵入しようとする舌に焦って胸板を押すと、サチはあっさりを解放した。
「はい、ご褒美」
「な……っ」
顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせるを、サチが面白そうに笑う。
ユイジーンは諦めたように溜め息をつき、洗った洗濯物を干すために2人に背を向ける。
サチはユイジーンが空けたスペースに立ち、洗濯物を掴む。
が信じられないという顔でサチを見ていると、その視線に気づいてニッと笑った。
「ちゃんと働かないとご褒美あげないぞ?」
「い、いらないわよ!!」
無駄だと思っても、そう叫ばずにはいられなかった。
そんなを、サチはけらけらと笑う。
それでもまた洗濯物に手を伸ばしてしまう自分はやはり彼が好きなのだ。
そう再認識させられたことにより込み上げてきた行き場のない苛立ちに任せて、は乱暴にシャツをこすった。
憎らしいキミガスキ
(悔しいけど!)