どの面下げてそんなこと

*現代幼馴染パロ



幼なじみとは思いの外不便なものだ。
友達以上の関係になって初めて、私はそう思うようになった。

私の恋人兼幼なじみの李絳攸は、天才と言われる程の頭脳の持ち主で、頭の固い真面目な人だ。
逆に私と言えば、勉強を初め、日常生活のあらゆるところで絳攸に頼りきりのダメな子で、常日頃から絳攸を怒らせ、けんかになることもしばしばだった。
そんな私達が別れずに済んでいる理由は、ひとえに付き合いの長さのおかげだろう。
では何故、ここに来て、私はその関係を厭うのか。
それは至極身勝手な理由からだった。

「私達には甘さが足りない!恋人なのに!」
「……は?」

私はばんっと机を叩く。

絳攸は、部屋に来るなり意味不明なことを叫ぶ恋人の姿に目を瞬かせた。

「私達、いつまで経っても幼なじみの域を出れてないと思うの。それは幼なじみという関係に甘えてるからよ。お互いに近すぎてるの。だから、少し距離を置いこう!」
「……すまんが訳が分からん」
「もうっ、絳攸の石頭!兎に角、距離を置こうって言ってるの!私達のラブラブな未来の為に!」

絳攸は頭痛を覚えてこめかみを押さえる。
ふー、と息を吐いて痛みに耐えると、頭痛の要因である目の前の少女を見据えた。

「俺と距離を置いて、来週から始まる試験はどうする気だ」
「そ、それは自分で何とかするもんっ」
「何とかなったことが今までにあったか?」

うっと怯んだが、テストごときに屈服する私ではない。

「自分で何とかするよ。保護者みたいなこと言わないで!」
「……何がそんなに不満なんだ?」
「不満に思わない絳攸の方がおかしい!」
「別に不満に思ってない訳じゃない」

予想外の絳攸の返答に、私は言葉に詰まった。
そして絳攸の言葉を数度脳内で反復し、ある結論に至った途端、さあっと青ざめた。

「絳攸は、私に不満があるってこと……?」

心当たりがあり過ぎて、口にするのもおぞましかったが、私は尋ねずにはいられなかった。

「あぁ」

短い肯定の言葉に、私は天井から金ダライが落ちてきたような衝撃を受ける。

先程までの威勢はどこへやら、しゅんっと俯く私に、絳攸は手を緩めることなく続ける。

「大体、いつも宿題だの愚痴だのを持ち込んできて、甘い雰囲気にさせないのはお前だろうが。それなのに今度は距離を置こうだと?」

反論出来ず、ううぅと唸る私に、絳攸は冷たい視線を投げる。

「ふざけるな」

絳攸の叱りはいつも容赦ない。

私は更に縮こまる。
絳攸の言っていることが最もすぎて、彼の顔が見れない。

絳攸はハァッと溜め息をつき、もはや反論しようという気力もない私に近づくと、唐突に抱き締めた。
驚いて体を固くする私の頭に頬を寄せ、耳元で囁く。

「お前がそういうこと言うなら、俺だって我慢しないぞ?」

その声が何かを抑えようとしているように聞こえて、私はようやく顔を上げた。

すぐ近くに赤らんだ絳攸の顔があり、それが更に近付いてくる。

私は瞼を閉じて、絳攸のキスを受け入れた。
軽く重なり、一度離れて再度重ねると、今度は舌を絡める。
互いの息が上がる頃には2人を繋ぐ銀の糸が出来ていた。

キスを貪られるように感じたのは初めてで、戸惑いつつも、絳攸の問いへの了承の代わりに今度は私の方からキスをする。
2人を繋いでいた糸が切れる。

「好きだ」

間近で言われた告白は、初めてではないのにやけにこそばゆくて、私は頷くことしか出来なかった。
それでも――もしくはそんな風だったからこそ――絳攸は満足そうに笑い、我慢しないという宣言通り、私を抱きかかえた。
どこ行くの、何て野暮なことは聞かず、私は絳攸の首に腕を回した。


初出:10.05.01 / 収納:12.10.21

一歩を踏み出し始めた恋。

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